指先から伝わる

  やさしい温度の名前をおしえて



だいすき。



 それはキラキラしてて、ただただ幸せなもののはずでしょう?

 恋人のことを嬉しそうに話す姉を見て幼心にそう思ったものだった.

 だからこそ、こんなにも苦しくなったり泣きたくなったりするような想いを

 愛だの恋だのなどと名付けることが僕には堪えがたいことだった.

 誰かを愛することは無条件に綺麗なものだと信じていたから.

 誰かを好きだというだけで世界はこんなにも特別に変わる.

 言葉を交わすたびに近くなる距離.

 目が合えばそれだけで嬉しくて・・・・.

 噎せかえるほどの花の香が胸の奥に充満するような心模様は君に出逢って初めて知った.

 シャツの釦を留めながら指先をぼんやり見つめ、ここにはいないあの人を思い起こす.

 今頃生徒会室で書類に埋もれているのだろう.

 夕暮れは人恋しくさせる魔法でも持っているのだろうか.

 初めて手を繋いだのは夕日も沈みかけた帰り道だった.

 心臓の音がやけに大きくて、隣の彼にどうか届きませんようにと願ってた.

 ・・・まだはっきり覚えてる.

 急に熱くなる指先を隠すようにぎゅっと手を握り締めた.

 「傍にいたい」僕の中で僕が叫んでる.

 リノリウムの床を響かせて、通るのは普段あまり使わない廊下.

 その教室の前で不二は足を止めた.

 そっとノックすると呆れた彼の顔が見えるような気がした.

 突然の来訪者の顔を見ると手塚は「どうかしたか」と幾分やわらかい声色で尋ねた.

 優しく髪を撫でられてどうしよもなく苦しくなる.

 嬉しいのに苦しくて、傍にいたいのに触れるのが怖い.

 矛盾してばかりのこの気持ちが恋か愛かなんて知らない.

 上手く名付けられない感情に戸惑うばかりで、いつから僕はこんなに臆病になったのだろう.

 それなのに彼はいとも容易く「好きだ」と口にする.

 どんな思いでその言葉を受け留めるかなんて、きっと想像もしないに違いない.

 恋か愛かなんて分からない.

 ただこの気持ちを抱えきれないからいつもいっぱいいっぱいで、

 抑制だとか整理だとか当たり前のことが出来ない.

 僕の両手ではとても足りない.



 だけど





 だから





 伝えようとするのかな






 「だいすき」











 書いててどうしよもなく恥ずかしくなった手塚が大好きな不二の話です
 異様に乙女なのはいつものこと!!(ぇ
 08.04.01